無辜の向こう

 融解後の塔はすっかり色が抜け、床を踏みしめれば足元から細かな粒子が舞い上がる。粒子はよくよく見れば小さな0と1で出来ていた。今にも崩れそうな壁、カビに埋もれたオブジェクト、うごめく電光色の何か。たださらさらと粒子の流れ …

今日もいちにち

 定例のバッチ処理が終わり、わたしたちはまた机に向かい合う。あるいは受付に立ち、あるいは給湯室にこもり、あるいは廊下で同じ会話をくりかえす。今日もいちにち、お仕事、おしごと。特に意味のない書類を作っては束ねてシュレッダー …

熱を出した日

「メリーティカ、解熱剤って飲ませる方がいいのかな」「袋に説明が書いてあるわ」「あ、ありがとう……えーと……」「大丈夫よクレヨン、今だけだから」  どこか遠くから聞こえる声と歩き回る気配、ごうごうと耳元に聞こえるのは自分の …

寝物語

窓枠が揺れた音に目が覚めた。暗闇に慣れた目を横にやれば、窓に垂らされた布が風に煽られて大きくうねっていた。留めていた筈の錘がずれてしまったらしい。 僕は寝台から起き上がり、窓辺で暴れる布を掴む。僕が掴んだことで行き場の無 …

メーレ邸なう

本当なら、もう二度と首を突っ込むつもりは無かった。しかも……よりによって一番会いたくないじじいなんぞに鳥文まで飛ばす羽目になるとは。とは言え、こんな話が出来るのなんて、じじいしか浮かばねーんだもんよ。 さすがの俺も城内に …

だだこねの話

「そういう訳で、君たちの協力を仰ぎたい」「異議あり」「なんだね、ハイラ君」「やる気になれない場合はどうすりゃ良いですか」「愚問だね、ハイラ君。君たちに拒否権などあると思うな」「それ協力って言わないよねえ……」  昼食の鍋 …