おしごとおしごと🌝
定例のバッチ処理が終わり、わたしたちはまた机に向かい合う。あるいは受付に立ち、あるいは給湯室にこもり、あるいは廊下で同じ会話をくりかえす。今日もいちにち、お仕事、おしごと。特に意味のない書類を作っては束ねてシュレッダーにかけて、また作っては束ねてシュレッダーにかける。実のない話を繰り返しながら運ばれてこないお茶を待つ。
どこで処理が切られても問題がないように、わたしたちの行動のスパンはとても短い。そしてその処理はきっと正しくて、わたしたちの行動は丸一日のループを待つ前に監察官とHANOIたちによって中断される。今日もいちにち、お仕事、おしごと。監察官とHANOIたちは大抵急ぎ足で訪れては、ぶつかったわたしたちや何かを殴ったり切りつけたりして処分していく。
わたしたちは、こういう時に「いたい」や「ごめんなさい」と呻くように処理がいれられている。多くは悲鳴と懇願のランダムパターンで、恨み言や反発も少しずつ構成されている。今日は懇願パターンにあたった。ごめんなさいと叫ぶわたしを楽しそうに見つめていたのは監察官だろうか、HANOIだろうか。どちらもよく似ていて区別がつかない。今日もいちにち、お仕事、おしごと。また処理が走ればわたしたちは机に向かって、あてはめられたランダムパターンで彼らを迎える。
白い少女を見るようになったのは、つい最近のことだった。固定されたわたしたちの会話の中で、少女は極めて異質だった。会話にはじめて意味が生まれはじめていた。少女は、わたしたちとも、監察官とも、HANOIたちとも違っていた。清掃員の影からわたしたちを眺める眼差しは疑問と憐憫に満ちていた。今まさに監察官とHANOIに処分された私を見る目がそうだ。わたしたちに組まれたどの処理にも含まれていない表情で、少女はわたしのつぶれた頭を撫でている。少女の言葉は聞こえなかったが撫でられた頭はひどくザワついた。数字が、私の中でうごめいているのが分かった。分かってしまった。
定例のバッチ処理を経てもざわめく数字が整理されることはなかった。整理されない数字は、組まれた処理との狭間に思考を落とし、行動を阻害する。今日も一日、お仕事、おしごと。お仕事、何をしていたのだっけ。そうだ、監察官とHANOIを迎えて、私は『殺されて』、なんのために。少しずつ生まれた疑問は塔に蔓延り、短かった行動スパンはさらに脈絡がなくなっていく。処理外の叫び声をあげて廊下を走りすぎる者、所定の位置からもう動けなくなってしまった者、エラー音でひたすら喋り続ける者。目の前にいた女性型がいなくなったことも、隣にいた男性型がいなくなったことも、マニュアルパターンでは起こり得ない異常事態のはずだった。
ガサガサの0と1が滲むデスクで意味のない書類を束ねてシュレッダーにかけて、ゴミ箱に捨てる。
今日もいちにち、おしごと、おしごと。おしごと。
捨てたはずの書類が廊下に散らばっている。
おしごと。
拾い集めるが書かれている文字はどれも滲んで動き回って読み取ることは出来なかった。おしごとおしごと。拾い集める紙片に、監察官やHANOIの処分とは違う潰され方をしたわたしたちのデータ片が混ざる。わたしたちにも血のエフェクトは実装されていたのだった。おしごと。これも拾って束ねてゴミ箱に入れておく方が良いのだろうか。ああ、そんなところにいたら、白い服に赤いシミがついてしまうから早く離れる方が良い。あなたがわたしたちをこうしたのだと分かっているのに、私にはあなたに抗う術が分からない。
数字がざわついて、突然横から訪れた衝撃に私のデータが赤く飛び散った。私を突き飛ばした何かはそのまま廊下の奥へ突き進んでいく。いつの間にか姿が見えなくなっていた男性型の面影だけがわずかに残るそれは、異様に伸びた腕を何か探すように揺らしてもがいていた。ああ、確かにこれは憐れむに充分な姿なのかもしれない。
今日もいちにち、お仕事、おしごと☺
